近衛長も剣を抜く。
城の奥で、剣を納めろと声が聞こえる。
なんだ?戦うなといっているのか?
「レーヴェ将軍。あなたの戦術には感服します。お互い死者を出すことなく、ここまで来られました。わたしは陛下から、無理に戦うなと勅命を受けております」
死者ならもう出ている。
あんな化け物を飼っているのなら、策を練り直すのであった。
今更後悔しても、遅いが。
レーヴェは自嘲気味に微笑んだ。
「では、退くがいい。命を無駄にするな」
かなりの使い手とは思うが、負ける気はしなかった。
「わたしは近衛長です。王と、皇族の方々を護るのがわたしの役目。勅命とはいえ、わたしにも矜恃というものがござる。誇りまで奪うことはできません」
そのかわり、と近衛長は言葉を繋げた。
「わたしが斃れたら、部下には手出し無用に願いたい」
殺すには惜しい男だと思った。こういう忠誠心の高い男こそ、瞭牙の側に付かせたい。
だが、この男は従うまい。死んでも、風明王に従おうという心が表れている。
こちらになびかぬのなら、討ったほうが後々災いにならずにすむ。
「……致し方ない」
閃光が走った。
立て続けに金属音が響いた。
近衛長は、確かに剣技は達人の域に達しているであろう。仕掛けてくる攻撃に無駄がなく、受けるとかなり重く感じる。
だが、彼が相手ならロランでも務まるだろう。
あの化け物はどこだ。
ロランの家で感じた、あの奇妙な気配を感じない。
だが、どこかでこの光景を見ているかもしれない。
なかなか持久力のある男だ。重い攻撃を繰り出しても、なかなか疲れを感じさせない。
だが、持久力にかけては自分が上だとレーヴェは思っている。
その証拠に、だんだん相手の素早さが落ちてきて、技に正確さがなくなってきた。
ここで決着をつけるか。
こんな出会いでなければ、いい友になったかもしれない。そう思った。
最後の一撃を放つと、近衛長の身体が一瞬、硬直した。
城内からどよめきがわき起こる。
ゆっくりと、身体が沈んだ。
急所を狙ったのだ、即死は間違いなかった。
いたずらに苦しませることは、本意ではなかった。
レーヴェを讃える歓声が、背中を押さんばかりに聞こえる。
「アレン」
剣に付着した血をぬぐいながら、従者を呼び寄せた。
「これより突入を開始する。近衛長の戦死により、反撃がくる可能性もある。各自、攻撃に備えよ。武器を没収し、報告にあった武器庫を鎮圧。そして、近衛幹部は捕らえて、討て」
アレンの顔が引きつった。
「将軍……近衛長は手を出すなと」
「全員手を出さない約束はしていない。上層部が厄介なんだ。下手に策を練られて足下をすくわれてもつまらん」
アレンは曖昧に返答した。得心が行かぬようだ。
「近衛長を討ったとはいえ、ここの近衛は烏合の衆ではあるまい。それなりの忠誠心もあり、近衛長を慕う者も多かろう」
レーヴェは城を見上げた。
「堅剛な意志で反撃されたら、こちらが危うい。災いの芽は、大木になる前に潰しておくことだ」
いくさとは、そういうものだ。
アレンは苦々しい表情で、うなずいた。
「皆に、通達します」
城門が開いた。
若い兵士たちは、次々と武器を放棄して投降してくる。
レーヴェは命の保証を約束すると、アレンと共に城内へ入った。
その後ろでは、部下の兵士たちが、数人づつ組んで、城の敷地内へ散らばる。
最重要占拠箇所は、さきほども指示を与えた武器庫である。あと皇族が逃走につかう、抜け道を捜索し、押さえなければならない。
難攻不落といわれているが、抜け道がないはずがないのだ。占拠して、皇族の行動を封じる必要があった。さもなければ王がいない今、民を掌握することが難しい。
あの化け物が我々を襲う可能性はあるが、それよりも、城内奥から、異様な殺気が流れてくるのが気になった。
間違いない。
奥に、ロランたちを殺した化け物がいる。
theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学